恩師と呼べるひとは．．．

Sorry,Japanese only
Last Update 20010720

恩師と呼べるひとは．．．

　私の最終学歴は，某N大学大学院の生物系です．現在は，某半導体試験装置・計測器メーカで電子回路（低周波アナログ回路から高速パルス回路まで．．．）を生業としているので，最終学歴を得た学校で学んだこととは大変なギャップがあります．
　ところで，今，実際に会社で活用している知識や考え方といったものを，私がどこで得たかと言うと，それは，大学ではなく，高専です（かなり，独学した部分もありますが）．

　先日，私の管理しているWebの掲示板に高専時代の友人S君からの書き込みがあり，電子メールで問いただしたところ，彼は今年の秋に結婚するらしいのです．高専在学中は，彼と寮生活を共にしたこともあり，卒業式のときも，その後も，ことあるたびに「結婚式には呼べよ」と彼には言っていたんですが．．．なんだか，いざ彼が結婚するとなると私は一人取り残されたみたいでちょっと寂しいものです．でも，めでたいことには違いないので，

S君おめでとう

　と言っておきます．

　さて，彼の高専時代の研究というのは，カンカン石（サヌカイト：黒曜石）を振動子とした発振回路でした．サヌカイトを使った単一周波数の発振器は作れたようですが，マルチ周波数の発振はなかなか実現できなかったようです．今，この研究を振り返ってみても，これはこれで，なかなか面白い研究なんじゃないかな？と私は思っています．

　ところで，彼の指導教官であった斉藤勲という先生は，私の指導教官であった高木先生についで，非常に印象に残っている先生でした（斉藤先生は定年退官しています）．斉藤先生からは，通信工学と音響工学を教えてもらったんですが，この先生，NEC出身（企業あがり）だけあってなかなか泥臭い部分があったのです．この泥臭さは大学では味わえなかったもので，どちらかといえば企業的な感覚であったと思います．先生の発言で，未だに覚えているのは，

君たちは瓦だ

　と言うものです．これは，テストの追試をすることによって，点数があがるどころか，下がる人がいることを批判したものです．この言葉の意味は，宝石は，磨けば磨くほど良くなるが，瓦は磨けば磨くほど駄目になるということを表しています．つまり，当時の私たちは，勉強すればするほど人間として駄目になってるぞということが言いたかったようです．
　先生は，「勉強して，ああ，聞いたことある．．．」とか言って聞き流すような人間になるくらいなら，「そんなこともあるのか！」と感動できるだけ何も知らないほうがいい！とまで言っていました．
　また，学生実験では，

エンジニアなら理屈はどうであれ，最終的に動くものを作ってみせろ

　とまで，言ってみたり．ホントに，泥臭い先生でした．

　斉藤先生も，印象深かったのですが，実は，私が未だに頭が上がらないであろうと思える先生は，先ほどあげた高木先生です．私は，高専を卒業して，かれこれ6年になりますので，高木先生もそろそろ定年退官ではないかと心配しているんですが，ホントに，今の自分があるのは髙木先生のおかげではないかと思っています．
　研究に対する心構えとか，取り組みかたといった事を，普通は大学で学ぶものだと思うのですが．実は私はそれらを唯一，高専のときに高木先生から学んだのでした．
　私が大学のとき所属した研究室は，教員が学生を指導する気もなければその実力もない，さらに，研究に対する精神論すら語れないような人物で，しかも，学生（後輩）にいたっては，○○通信と称して平気で先輩や教員の陰口をメールで配信してまわるという，愚劣なやつらでした．

　そんな大馬鹿研究室にあっても，私が研究をやって行けたのは，高専時代に指導してくれた高木先生のおかげといっても過言ではありません．高木先生のおかげで，「研究とはこうやってやるべきだ」と言ったことを学んだと思っています．私が，この「研究を行う上での心がけ」を大学時代後輩に語ったところで，彼らには，この精神論はぜーんぜん伝わらなかったようですが．．．それどころか，「年寄りくさい戯言」に映ったようです．おかげさまで，私の名前も，件の○○通信に掲載されることになるのです．

　その高木先生から，教えてもらった研究に対する考え方というのは，

自分でやりなさい

　というごく当たり前のことです．つまり，第三者から見たら，高木先生ははっきり言って指導していないようにみえるものでした．先生の指導方法は，完全なる放任であり，先生が学生を放任する理由は，

苦労せず，簡単に教わったことはすぐに忘れてしまう
自分で苦労して学んだことは忘れない

　というものでした．
　したがって，私が当時「MC6809用のクロスアセンブラ」を卒業研究のためにコーディングしていたとき，うまく動かなくて悩んでいても，先生は私を一瞥し，「がんばれよ」と言っただけでした．
　その後，夜残って研究をしようと思い，研究室のカギを借りに行ったとき，先生は「前にうまく動かなかったところはどうだった？」と聞くのです．私が「ポインターの使い方がまずかったみたいです」といったところ，先生は「そんなことだろうなぁ」と言ったのでした．つまり，先生は「わかっていても，口には出さない」人なのでした．しかし，論文のまとめかたといったことについては，熱心に指導してもらった記憶があります．
　先生は，学生が泥沼につかってどうにも身動きとれなくなっているときや，まったく手がつけられていないといったときのみ，指導してくれるのでした．
　したがって，大学時代の研究室で横行していた「ほったらかし」とは雲泥の差です．

　さて，○○通信といった愚行を実施したN大学の彼らが，将来どういった会社で働くことになるのかは知りませんが，私が社会人となった今に至っても，高木先生から学んだことが役に立っているということから考えて，私が大学時代に後輩に語ったことは，けして年寄りくさい戯言なんかじゃなかったんだと思っているんですがね．

　人それぞれ，「恩師」と呼べる人がいるとは思うんですが，私にとっては，高専時代のこの高木先生が，本当に恩師であると思っています．大学時代の指導教官は，私に論文掲載料（約20万円）を自腹で払わせるような人間（もちろん，彼は論文の共同執筆者になっています）ですし，学生の研究の真価を見ぬけないような輩なので，正直言って，とても「恩師」とは呼べません．さらに，私が自腹を切った別刷を半分，この教授に送ったのですが，「受け取ったぞ」と言った返事すらよこしません．大学時代の同期に，疑問に思われながらも，大学の近くに立ち寄ったときにちょっとした手みやげを研究室に届けたとしても，なんら音沙汰無しです．件の教授は，私が学生時代なんの権利があって私に「マナー」を説いたのでしょう？　もっともマナー違反なのは，彼らだと思うのですが．．．

　私は，彼の元で学位をもらったにすぎないでしょう．．．あの研究室を去って，数年たった今となっても，そう思うのです．

．．．かわたのつぶやき

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