Sorry,Japanese only
Last Update 20020402

この特許は誰のもの

 なんだか高尚なタイトルですが,別に,エンジニアの特許は会社のものか? エンジニア自身のものか? といった議論をするわけではありません(^^;
 先日,ある特許のアイデアが根本的なところ(発想の原点?)で似ているなぁ? と思ったので皆さんに見てもらおうと思うだけです.この比較してほしいアイデアというのは,私が2000年2月に審査を受けた修士論文で提案した回路方式に関連するものです.

 なあんだ,一般刊行物として公開されたアイデアじゃないのか? それなら,アイデアが似ているも何もないじゃん!と思われることでしょう.
 ところが,私は,このアイデアを記述した修士論文,および大学に残していったものとまったく同一の全データを,この特許出願者の方に送っているんですね(研究上で,お会いしたこともあったので).まず,私の修士論文の一部(第5章)をPDF化したものを公開しますので,目を通してみてください.参考・引用文献のリストも著作権保護のため公開します.
 次に,私が「?」と思っている特許は,特許公開2002-78096(123456)ですので,ちょっと目を通してください.

 さて,どうでしょうか? 似てないじゃん! と思われる方もいるとは思います.
 そう思われる方のために,簡単に私の考案回路のコンセプトを説明しようと思います.
 なお,以下の説明に出てくる「生活環境音」というのは,日常生活上での騒音だと思ってください.例えば,掃除機とか洗濯機を動かしているときの音などです.「報知音」と言うのは,電子レンジの「調理おわったよ音」とかを想像してくれると良いと思います.

  1. 私の考案した回路は,周囲の生活環境音レベルを計測し,その音圧レベルに応じて報知音の音圧レベルを制御するものである.
  2. 報知音の音圧レベルを制御する信号は,ユーザの年齢に応じて変化する.
  3. 生活環境音の音圧レベルを推定する際には,若年者の聴力特性を模擬したA特性とコンパレータによる閾値制御を採用する.
  4. 老人になるほど,全体的に聴力が衰えているため,これを検出(フィルタリング)するのがコンパレータである.

 さて,私が上で紹介した特許が「私の考案回路のアイデアと酷似している」と言ったのは,2.および4.の点を抽象化したと考えると,アイデアが似ていると思うからです.
 特許文書では,高齢者に応じた騒音レベルとなるための「専用の補正フィルタ」を用いるようになっていますが,これを簡易的に実現するなら,A特性とコンパレータを使用した方法(私の提案回路方式)で実現できます.

 つまり,私は,自分のアイデアを実現化するために「具体的回路方式」として記述したのですが,特許ではそれを抽象的に表現しているにすぎません.
 事実,このアーキテクチャはDSP(デジタル信号処理)を用いても実現できます.
 私は,まがいなりにも工学研究科の学生でしたので,抽象的な概念ばかりを述べていては駄目です!! 自分のアイデアは「実現可能である」と論文審査の段階で示さなければ駄目であるとの考え方(というか,自分自身のプライド)から,実現方法を決め,それをインプリメントしただけです.なお,出願者は聴覚心理学等が専門です(つまり,回路およびシステム方式の研究が専門ではありません).

 実際,この回路はもう少し練るつもりでした.基本的なアーキテクチャが気に入っていたからです.しかし,修士論文審査の1ヶ月前くらいにやっとプロトタイプが完成.特性上の問題がぼろぼろと出てきて(具体的には,対数増幅回路へ入力する信号レベルが小さすぎたため,オフセット電圧の影響が大きく実用的な特性が得られていない・・・レベルダイアグラムをしっかり書いて設計すべきだった),論文提出の直前(実は,前日深夜〜当日早朝)までいじくりまわしていたものです.したがって,私の修士論文の内容のほとんどは,学会投稿論文に記述しているにも関わらず,この章については,一切記述しなかったのでした.これが,敗因と言われればそれまでですが(^^;

 修士論文提出後,半年くらい後に,この特許が出願されているとの情報を私はとある筋から得たのでした.そのときは内容を知らなかったので,「へ〜」くらいにしか思っていなかったのです.しかし,公開された文章を見てちょっとびっくり!
 なぜなら,私の報知音音圧レベル制御回路の生活環境音検出部と基本的コンセプトが酷似していると思ったからです.騒音レベルの検出精度といった点では,特許の方式のほうが優れていると思われます.でも,特許ってのは「性能の良い方に優先権があるわけじゃない」ですよね? 私の回路も特許方式も,一言で言えば,「高齢者の聴力に応じた騒音レベルを検出する」ことを述べているに過ぎません.

 まあ,どうこうする気もないのですが(本当は,どうこうしたいのですが,私の知識ではどうしようもない),この拙文を見た方がどう思われたか知りたかったりします.この「高齢者に応じた騒音レベルを推定する」っていうアイデアの発案者はどちらにあると思われるでしょうか?
 ご意見は掲示板にお願いいたします.もしメーカの方でこの報知音の音圧レベル制御のコンセプトを実現しようとお考えの方がいて,かつロイヤリティの関係で困るようなら,特許無効請求ができるのかも知れません.私は,知的財産権といった問題に詳しくないのでよくわからないのですが...
 なお,私は「公的研究機関が自身の研究成果を特許という形で保有することには疑問を持っている人」です.公的機関なのですから,研究成果といったものは論文,技術雑誌等で公開し,みんなに練ってもらい利用してもらうものだと思っているからです.
 企業では,そんな甘っちょろいことは言ってられないので,積極的に特許で武装すべきであると思います.私も一般企業のエンジニアですので特許は積極的に取るように心がけています.
 この回路方式ももう少し特性改善等をして,技術雑誌で公開しようかなぁと思っていたのですが,こんな特許が出てしまったので非常にがっかりして,今や,実験すら止めてしまいました.ですので,実現してみようかな?と思われる奇特な回路屋さんはどうぞご自由に実験してください.なかなか良い特性が得られたなら,教えてもらえるとうれしいですね.

...かわたのつぶやき


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