冬なのに怪談
そこは開けちゃ駄目
小学生くらいまでは幽霊やお化けといったものが怖かった.しかし,いつの頃だろうか,それらに恐怖することは無くなった.十代の後半にはそれらを怖がるどころか,ほとんど唯物論者に近い考えを持っていた.
あれは,十九歳くらいのときのことだったと記憶している.高専の学生だった頃だ.四国地区の高専の文化系の部が集まってやる「総合文化祭」というものがあった.これは,遠方で開かれることも多く,基本的に1泊することが常だったと記憶している.
旅館での出来事である.あのくらいの年齢の子は「怪談話」が好きなもので,夜になるとある一人の部屋に集まって百物語ではないが,怪談を披露することがあった.当時,文芸サークルに足を突っ込み,いくつかの怪談小説,幽霊話を発表していた私は,そのサークルにいた女の子達から「かわたさんは幽霊を信じている」といった誤解をされていたようだった.
いくつかの怪談を,ある奴が話したところ,女の子の一人が,「そんな話ばっかりしていると集まってくるんだよ」と言い始めた.その女の子は,自称「霊感少女」であり,あなたは霊感があるだの,あなたには無いだのいろいろなご託宣を勝手に言っていた.私は,彼女によって「霊感が無い」というレッテルを貼られていた.
そんな彼女が,「集まってくる」などと言い出したため,場は少々騒然となった.しかし,私にとってはこれはチャンスであった.もともと幽霊なんぞ信じていなかったので,ここぞとばかりに怖がらせようと思った.
そのとき,一人の女の子が,「ねぇ,あの押入れのところ気持ち悪くない?」と言い出した.私としては,全然そんなことは無く,「そうかぁ?」と思った.皆があまりに気持ち悪いと言い出すので,そんなことはないということを証明してやろうと,「何にも無いって,開けてやろうか?」と言った.すると,女の子達が,「やめてよ〜」と言い出した.一人なんぞは,えらい真顔で,「そこは開けちゃ駄目」と言った.しかし,私は,気持ち悪がって仕方が無い連中を治めるには,そこを開けて何も無いということを見せてやるしかないと思った.百聞は一見にしかず,である.
「何にも無いって,開けるぞ」と言って立ちあがったとき,私はある男の先輩に抑えつけられた.しかも,口まで塞がれた.その先輩が言うには,「なんでお前はそんなに開けたがるんだ? おかしいぞ」ということであった.つまり,私は,「取り憑かれている」状態だと言うのである.しかし,私に言わせれば,周囲の状況のほうが異常であった.ある一人の女の子の発言に勝手に戦慄し,彼女の言うがままに恐怖している.当時,新興宗教の洗脳が騒がれていたこともあり,私は,集団ヒステリー状態の連中の中に,一人,正常でいる気分になっていた.
口を塞がれ,体の自由を奪われているとき,「あぁ,狂信者の中に正常な奴が飛び込むと,こんな風にして殺されていくんだろうなぁ.」と思った.真に怖いのは,幽霊やお化けではなく,それを狂信する人間であると思った.
手招きする女
妹から聞いた話である.私は,小学校2年生くらいのとき,自分が通う小学校がある隣の町に住んでいた.ただ,学区の問題があったため,住民票は自分が通っている小学校の学区内にある祖母のうちに置いておき,実際は隣町で両親と暮らしていたのである.
その家はよくある2階建ての家屋であった.しかし,いくつかの奇妙な現象が起きたこともある.ある日,台所で家事をしている母に,国語の教科書の朗読を聞いてもらっていたときのことである.突然,換気扇の羽根が外れ,私のすぐ近くまで吹っ飛んできたのだ.幸い,当たることは無かったので怪我をすることは無かったのだが,そもそも換気扇の羽根を固定する金具には逆ねじが切ってあり,ちょっとやそっと,その金具が緩んだからといって吹っ飛んでくることはない.実際,そのようなことは二度と無く,なぜ,突然外れたのかは未だにわからない.
そんな家に住んでいたのだが,ある日の夜,妹がふと夜中に眼を覚ました時のことである.階段に近いドアの前に一人の中学生くらいの女の人が体操座りをして佇んでいたそうである.当時,二階は寝室として使っており,一つの部屋に両親と,私と妹が,もう一つの部屋に姉二人が寝ていた.その女の人は,白いパジャマを着ており,妹に手招きをしていたそうである.最初,妹は「お姉ちゃんかな?」と思ったそうだが,隣の部屋を見ると,姉二人は気持ちよさそうに寝ている.ということは・・・!?
その後,彼女の姿を見ることは二度となかったというが,今でも妹は,「あの家には幽霊がいた」と言っている.
ナホちゃんとあそぼぅよぅ
これも,妹から聞いた話ではあるが,実は,私もこれは経験している.しかし最初に述べたように私は唯物論者なので,夢であったと思っている.ただ,同じような夢を二人の人間が同時期に見るのか?と訊かれるとよくわからない.
小学校の5年生くらいのとき,私は,小学校の近くにある古い木造の平屋に住んでいた.この平屋は雨漏りがするくらい古く,私達が引き払った後まもなく取り壊された.
さて,昔のテレビなんかだと,幽霊が登場するとき「ヒュ〜ドロドロドロ」というお囃子が流れることがあったのだが,あれは,テレビの話であって,本当に幽霊が登場するときに,流れることなんかあるわけないと思っている人が多いと思う.しかし,私はあれを,実際に聞いた事がある.
ある日の夜.私と妹が一つの布団で寝ていた時のこと.私は,おもむろに「怖い」という感覚に襲われた.寝返りをうとうとしても体が動かない.そのとき,例のお囃子が聞こえてきた.「ヒュ〜ドロドロドロ」と.幽霊を見たというわけでもないのだが,戦慄を覚えたのは確かである.また,布団で寝ていたとき以外に,コタツで転寝していたときにも,聞いたことがある.すごく近くに両親がいる気配がしたので,声を出そうと思ったのだが,声が出なかったのを覚えている.
まぁ,私が聞いたのはお囃子だけだったので,「へんな夢を見たな」と思っただけだったのだが,先日,妹も同じ音を聞いていたということを知った.
妹は,私に話す前に,随分昔に姉に言っていたそうなのだが,姉二人は「そんなことあるわけないじゃん」と言って笑っていたそうだ.
しかし,私も妹も同じお囃子を聞いていたというのは奇妙なことである.念のため,妹に,「あの音ってさ,テレビなんかの軽いノリのドロドロじゃなくって,落語のお囃子みたいな太鼓を使って,重低音の効いた体に響くヒュ〜ドロドロドロじゃなかった?」と聞くと,正にその通りだということだった.
私は,お囃子を聞いただけだったのだが,妹はその主の声も聞いたそうである.声は小学校の低学年くらいで,彼女はこう言ったそうである.シクシクと泣きながら.
「ナホちゃんと遊ぼぅよぅ」
声は,私の近くの窓辺のほうから聞こえてきたそうだ.つまり,妹よりも私のほうがその声の主に近い場所で寝ていたそうである.当時中学生だった姉二人が彼女に気づくことは無く,小学生だった妹と私が彼女を感じたと言うのは,彼女と年齢が近かったからなのだろうか?
何度も言うが,私は幽霊はいないものだと思っている.しかし,あれは何だったのだろう? 姉や両親のいたずらであってほしいと思っている.
街灯が追いかけてくる
私が出た高専は,昔の帝国海軍跡地に建てられたものであった.今では,学校の近くに「神風特別攻撃隊 出撃の地」という石碑も建てられている.高専の五年生ともなると,大学ほどではないが,卒業研究に苦労し,夜,学校に残ることも多くなってきていた.寮生はほとんど無制限に残ることができ,残ろうと思う日は,指導教官に研究室の鍵を借りて残ったものだ.
当時は,海軍の跡地だということは知っていても,まさか特攻隊の出撃地だということまでは知らなかった.
幽霊とかを信じていないとはいえ,やっぱり一人で残っていると,「やばいな」と感じるときがあった.なんだかよくわからないのだが,「これ以上,ここにいると危ない」という感覚に襲われるのだ.そんなときは,早々に片付けをして帰る事にしていた.
これは,友人のK君から聞いた話である.
K君が研究室に行こうと,寮から学科棟に向かって歩いていたときのことだった.その道には日中,太陽電池からバッテリに充電したエネルギで夜間に蛍光灯を光らせるタイプの街灯が設置されていた.暗くなれば,自動的に点灯するタイプだ.一度点灯すれば,周りが明るくなるまで点いたままである.ところが,K君が歩いていると,彼の真上にある明かりが消えることがあったという.最初は,「蛍光灯が切れているのかな?」とでも思ったようであるが,暫く歩き,次の街灯の真下に来ると,今度はそこの明かりが消える.え?と思って,後ろを振り向くと,さっき消えた蛍光灯が今は何事も無かったかのようについているという.自分が歩くのを街灯がつけてきているようであったらしい.「やばい」と思った彼は,そのまま研究室に行くのをやめ,寮に引き返したそうだ.
落下する少女
妹の高校の修学旅行での出来事.
妹が,ホテルの土産物屋さんで,お土産を物色していると,窓の外,ちょうど中庭になっているところに,女の子が落ちてきたらしい.「ドサッ」と鈍い音がしたとき,妹は暫くフリーズしてしまった.しかし,女の子の手がかすかに動いたのを見て,近くにいた先生に「人が落ちたみたいです」と言ったところ,先生と添乗員が大慌てし始めたらしい.
落ちてきた女の子は,妹も知っている女の子だったそうだ.どうやら,ベランダづたいに部屋を移動してやろうと画策していたところ,足を滑らせて落ちてしまったとの事だった.オテンバも考え物である.
昔,「ほんとにあった呪いのビデオ」というシリーズモノのビデオで,人が落下するシーンが映っているビデオが紹介されていた.そのビデオを撮った人達は,人が落ちたという事実はないといっていたが,もし口裏を合わせていたらどうなんだろう?と思う.
実際に,修学旅行生が落ちることがあるのだ.しかも女の子.彼女のせいで,危うく修学旅行が中止になりそうなところまでいったらしいし,地元の新聞にも載ってしまったとの事.
ちなみに,彼女は怪我で済んだらしく,現在も健在とのことである.
...かわたのつぶやき
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