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Last Update 19981221

口絵写真



スタンバイ・ユニットの製作


Copyright (C) 1998 KAWATA Akihiro JI4XJI


はじめに
外観写真  スタンバイ・ピー回路を内蔵したスタンバイ・ユニットを製作しました。外観は右に示す写真(写真1)のようになっています。本機の回路図を図1図2に示します(クリックしてください)。図1の回路がスタンバイ・ユニットの本体です。図2の回路は車のヘッド・ライトつけっぱなし警告回路(おまけ回路)です。この回路が不必要な場合は省略できます。しかし、回路内のLEDがパイロット・ランプを兼ねていますので、図2をまるごと省略するとパイロット・ランプも同時に省略されます。パイロット・ランプが必要な人は、電源ラインにLEDを追加するようにしてください。また、スタンバイ・ピーが必要ないという場合は、動作しないようにすることも可能です。
 製作の前に、まず部品集めから始めます。パーツ・リストを参考にしてください。パーツ・リスト1が図1の回路に対応し、パーツ・リスト2が図2の回路に対応しています。特殊な部品はありませんので、部品集めはむずかしくないでしょう。地方の方はもしかするとフォト・カプラが手に入らないかもしれません。そんなときは通信販売を利用しましょう。
 部品、特に電解コンデンサはなるべく小型のものを使用します。車載機器なので、入手できるようなら電解コンデンサには使用温度範囲が"〜105℃"のものを使用したいところです。ちょっと高価ですが、OSコンは使用温度範囲が105℃まで伸びているのでいいかもしれません。部品が基板上で込み合っていますので大きなサイズのものは取り付けに苦労します。したがってトランジスタにもパーツリストに示されている2SC1815ではなく比較的小型の2SC2458を使用した方が良いでしょう。フレキシブル・マイクはサトー電気(トランジスタ技術誌の広告を参照してください。)で扱っているものを使用しました。PTTスイッチは好みのものを使ってください。LED内蔵タイプがよいと思います。
 なお、トランジスタは、基本的にNPN型の小信号用のものなら何でも動作すると思います(実際確認したわけではありませんが....)。hfeのランク指定はちょっと細かいですがとくに気にしなくても大丈夫でしょう。ただ、スタンバイ・ピー回路の発振周波数は変化するかもしれません。(実害はないですよね^^;)

製作
 部品が集まったら、製作開始です。プリント基板、穴あき基板、どちらで製作してもかまいません。プリント基板で製作する人のために、図3図4にプリント・パターンを示します(解像度の関係上プリントアウトして利用するということはちょっとむずかしいでしょう。アートワーク例としてご覧ください)。図3図1の回路のプリント・パターンです。図4は、図2の回路のプリント・パターンです。このプリント・パターンは銅箔面を示しています。私は、図1の回路を穴あき基板、図2の回路をプリント基板で製作しました。これは、手元にあった基板の関係でこうなっただけです。図1の回路を穴あき基板で作るのはけっこう大変です。(私は、この回路よりパーツ数の多い回路を穴あき基板で組んだこともありますが、とりあえず組み終わった後のデバッグが大変でした。)
 プリント基板を自分で作るのがおっくうな人は業者に頼むのもいいでしょう。トランジスタ技術誌に、試作基板を作ってくれる業者の広告が載っています。
 プリント・パターンが示されたからには、プリント基板への部品の実装図が示されるべきなのですが、図をつくるのが面倒なので、ここでは基板への部品実装図を示さないことにします_o_...。したがって、スタンバイ・ユニットの内部を撮影した、写真2写真3を参考に実装を行なってください。ここで、注意点ですが、フォト・カプラは銅箔面に実装するようにプリント・パターンを設計しています。また、実装スペースの都合上、三端子レギュレータも銅箔面に実装しています。
 また、本機をハンディ機に使用するにはPTT GND端子とOUT GND端子を接続し、さらに、PTT端子とAF OUT端子間に適切な抵抗器を接続する必要があります。何Ωの抵抗を接続すればよいかは各ハンディ機の取扱説明書を見てください。ちなみに私のハンディ機(YAESU(現バーテックススタンダード)製)では、3.3kΩになります。なお、本機のPTT端子とPTT GND端子間は送信時に導通するようになっています。

動作確認
 基板の製作が終わったら、ケースに組み込む前に動作確認を行ないます。
 まず、図1の回路から、動作確認を行ないます。実験用電源の出力電圧を12〜14V程度にして基板の電源端子に接続します。つぎに、マイク入力端子にコンデンサー・マイクロフォン(ECM)を接続し、マイク出力端子にX'talイヤホンなどAF信号を確認できるものを接続します。拙著である文献2で紹介しているAFチェッカーや、文献3に紹介されているツールを使ってもよいでしょう。
 VR3を真ん中にして、マイクに向かって何かしゃべってみます。するとイヤホンにその声が増幅されて聞こえてきます。何も聞こえないときは配線ミスやはんだ付け不良が原因だと思います。ガクッと肩を落とす瞬間ですが、元気を出して修復してください。
 つぎに、マイク・アンプのゲインを調整します。VR2の抵抗値を大きくするとゲインが下がります(負帰還量が増大します)。周囲の音を拾いすぎないように適当にゲインを落としておきましょう。それでも、ゲインが大きすぎるというときはR13の値を大きくしてみてください。1KΩ程度までは問題ないと思います。逆にゲインが不足するときはR13を取り除き、かわりにジャンパー線で接続します。
 マイク・アンプの動作確認が終わったら、次はスタンバイ・ピー回路の動作確認をします。PTTスイッチを送信状態にしてから再び受信状態にしてみてください。このときピッという発振音がイヤホンから聞こえたらスタンバイ・ピー回路は正常です。この発振音の長さはVR1によって調整できます。VR1の抵抗値を大きくすると発振音は長くなり、逆に小さくすると発振音は短くなります。
 VR1の調整だけで好みの長さにならないときはR5の抵抗値を変化させます。
 最後にVR3で発振音とマイク入力レベルのバランスを取ります。VR3だけでは調整できないというときはR14を取り替えてみてください。R14を大きくすると発振音は小さくなり、小さくすると発振音は大きくなります。
 さて、つぎは図2のおまけ回路の動作確認です。この回路には調整箇所がありませんので配線間違いさえなければ動作します。
 電源端子に先ほどと同じように実験用電源を接続します。SW1によりQ1のコレクタとQ2のベースが接続された状態となるのはヘッド・ライトが点灯しているときです。(そうなるようにSW1を車に取り付けます。)この状態で電源を除去すると圧電素子からメロディが流れます。また、電源が接続された状態でSW1がヘッド・ライト点灯の状態となってもメロディは流れません。以上のように動作していれば、図2の回路は正常に動作しています。メロディを流す時間をもっと長くしたいときはC2を大きくしてみましょう。100μFでは少し小さすぎたようです。

製作のまとめ(ケースへの組み込み)
 調整が終わってきちんと動作していることが確認できたら、半分は完成したことになります。残りの半分はケース加工、そしてケースへの組み込みという作品の顔を決める作業です。入手した部品によってそれぞれケース加工の寸法もかわってくると思います。各自、おおいにオリジナリティを発揮してケースのデザインを行なってください。車への取付金具はいろいろ工夫する余地のあるところです。これについても、それぞれご自分の車にあった取付金具を考案してみてください。私の考案した取付金具を写真4に示します。
 ケースへの組み込みが終わったら、もう一度動作確認をして完成です。

回路について
 むずかしいことは嫌いだという方は、以上でこの製作記事は終わりだと思ってください。電子回路に興味のある方や、少し、回路をいじってみたい(スタンパイ・ピーのON/OFFなど)というかたは、ぜひお付き合いを願います。
 図2の回路動作はディジタル的で簡単なため省略して、図1の回路動作のみ説明することにします。
 トランジスタQ4の回路はマイク・アンプです。アンプの入力には高周波の回り込み防止のためのLPFを設けています。このLPFはアンプの周波数特性に影響を与えないように素子値を選んでいます。周波数特性の確認は電子回路シミュレータMicroCap-IVにて行ないました。また、通信用のAFアンプなのでC11により高域信号は減衰させています(なお、回り込み防止LPFは、このC11を除去したときでも周波数特性が乱れないように素子値を選んでいます)。
 Q5の回路はバッファ・アンプです。オーソドックスな回路ですので説明の必要はないでしょう。この回路のR17とR20は動作安定用です。また、R21は出力が開放となったときのための対策です。
 バッファ・アンプの下にあるのは、おなじみの三端子レギュレータを使った定電圧回路です。
 さて、つぎは私の考案したスタンバイ・ピー回路の動作説明です。図1の左上にある3石の回路がそれです。
 はじめにPTTスイッチはR側になっているとします。このとき、Q2はカットオフ状態です。このとき、Q3にベース電流が流れることもないので、Q3もカットオフ状態です。Q2、Q3両方のコレクタ電位が高いので、Q1のエミッタ−コレクタ電圧は低くなっています。
 つぎにPTTスイッチがT側になったとします。このとき、Q2は直ちにオンとなり、コレクタ電位が下がります。やがてC8がチャージされてQ3もオンとなります。C8がチャージされたことによりQ2のコレクタ電流が制限されQ2のコレクタ電位はすこし上昇します。その結果、初期状態よりもQ1のエミッタ−コレクタ電圧は上昇しますが、まだ何も起こりません。
 ここで再び、PTTスイッチがR側になったとします。Q3はC8の電荷によりしばらくの間ベース電流を流せるので、しばらくはオン状態を保てます(このオン状態の時間がスタンバイ・ピーの発振音の長さを決定します)。しかし、Q2は、C8により逆バイアスがかかり、直ちにカットオフします。このとき、Q1のエミッタ−コレクタ電圧はほぼVCCに等しくなります。この電圧により、Q1のエミッタ−コレクタ間がブレーク・ダウンし、アバランシェ・モード弛張発振回路が動作します。発振波形はノコギリ波です。
 この発振信号をC5と信号減衰用抵抗R14を通して取り出します。C15はノコギリ波を少し鈍らせるつもりで入れています。なくても問題ありません。
 発振周波数を手軽に変えるにはC2の大きさを変えるとうまくいきます。この発振回路については文献1に簡単な説明があります。注意することは、このような動作をさせたトランジスタ:Q1は再び普通の増幅回路などに使用できないことです。
 PTT出力は、フォトカプラにより取り出しています。このように電気的に分離することにより種々の無線機のPTT回路に対応することができます。
 最後に、スタンバイ・ピーをOFFにする方法を述べます。
 R14とVR3の接続点をGNDに落とすことで、発振音はバッファ・アンプに入力されなくなります。スタンバイ・ピーが必要ないときは、常にこのポイントをGNDに落としておくと良いでしょう。また、未確認ではありますが、オープンにしているQ1のベースをVCCに接続することでも発振をストップできるかもしれません。

おわりに
 自作を始めたばかりの人は、製作物を確実に動作させることによって、自信をつけることがなにより大切ではないか?と私は考えます。というわけで、自作を始めたばかりの人は、いろいろと問題の多い高周波回路よりも、むしろ、確実に動作させることのできる可能性の高い低周波回路の製作を十分にこなすことで自信をつける必要があるのではないか?と思っています。マイク・アンプなどは、アマチュア無線機器においても使用されるものであり、自作ビギナーの製作課題としてはもってこいなのではないかと考えます。ここで紹介した回路はトランジスタがメインの非常に教科書的な回路となっています(スタンバイ・ピー回路はちょっと特殊ですが)。そのため自作ビギナーにも確実に動作が把握できるのではないか?と考えています。
 これから自作をはじめようかと考えているアマチュア無線家が、このコンテンツに少しでも興味をもっていただけたなら、それはもう私にとって望外の喜びです(^^\。


参考文献
  1. 黒田徹:アバランシェ・モード弛張発振器, トランジスタ技術1996年4月号, pp272
  2. 川田章弘:AFチェッカー, CQ ham radio 1996年6月号, pp199
  3. 吉本猛夫:故障診断お助けツールの製作, トランジスタ技術1996年9月号, pp211-216

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