R.A.ウィッテ,竹田輝夫/荒井信隆訳:スペクトラム/ネットワーク・アナライザ:理論と計測,トッパン,1993
等がありますが,上記の本は絶版です.悲しいことですが,最近,良書といえる本がつぎつぎと絶版になっていって,一見わかりやすそうだけど,内容が薄いという本ばかり生き残っているような気がしてなりません.ぜひ,なんとかしてほしいものです.
Web上の情報としては,「SPECTRUM電子工作のホームページ」が参考になるでしょう.このWebページは,スペアナを自作してしまおうという意図のもと書かれたもののようですが,スペアナに含まれる要素技術がアマチュアの方にもわかりやすくまとまっていて非常によい情報源だと思います.
FFTとスペアナの違いといえば,これから説明する表示レベルの違い以外にも,「相互変調ひずみ(IP3)」に関することを始めとして非常に大切なことがたくさんあります.というわけで,一度しっかりした本で勉強しておくといいと思います.
さて,ここでは,基本波周波数1MHzの矩形波を例に説明します.以下に示す信号(振幅787.3mV0-p)をスペアナで観測すると,基本波のレベルが4dBmと表示されます.
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これをFFTにより周波数分析すると以下のようになります.
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スペアナで4dBmなのに,FFTすると基本波レベルが“0.5”です.「なんで?」と思った人は,dBmが「電力」を表しているということに気をつけるとよいでしょう.
そうか! というわけで,早速“0.52/50”を計算して電力に変換したとします.50というのは測定系のインピーダンス(スペアナの入力インピーダンス)が50Ωだからです.また,dBmというのは,1mWを基準にしたレベルなので,それも考慮して計算すると,
となります.ヘンですね.“4”になりません.この原因は,上に示したFFTの図の縦軸にも書いているのですが,FFT後の各ピーク(スペクトル)レベルはそれぞれの周波数の正弦波の片ピーク値をあらわしているためです.片ピーク値から,電力を計算するには,そのピーク値を実効値に変換する必要があります.正弦波の片ピーク値を実効値に変換するのですから,2の平方根で割ってあげればOKです.したがって,
となり,スペアナの表示と同じ値になります.
ところで,矩形波をFFTした後の各高調波のピークレベル[V0-p]と,矩形波の振幅には以下の関係があります.
ここで,
ここで,DFはデューティファクターを示します.
次に,デューティファクターが変化したときの基本波レベルの変化を計算した結果を以下に示します.
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ここまで読み進めた人のなかには,「Dutyが変化したときに基本波レベルが変化するのはわかるけど,なんでそんなことを気にするの?」と疑問に思う人もいるかと思います.
なぜ,Dutyの変化を気にするのかというと,この矩形波信号というのを使って,装置のゲイン・イニシャライズができるからです.AC信号のレベルを精度良く測定しようとすると,それなりの測定器が必要になります.しかし,DCレベルであれば,安価なディジタルマルチメータ(DMM)を使用することもできます.そして,このDMMを使用して,DCレベルを測定することで矩形波の基本波レベルを今まで書いてきたように求めることができるのです.
つまり,ACゲインをイニシャライズする際にも,このDMMによるDCレベルの測定でレベル精度を出すことができます.
方法は,こうです.
まず,ACのキャリブレーション信号を発生する回路から,Hレベル固定の信号(DC信号)を発生させます.このHレベルをDMMにより測定します.次に,同様にLレベルを発生させ,これについてもDMMにより測定します.そのあと,キャリブレーション信号を発生させる回路から,矩形波信号を発生させます.これは,先ほどのHレベル,LレベルのDC信号をON−OFFさせるような形で矩形波を発生させる回路にすることで,高精度な振幅レベルを持ったAC信号を得ることができます.
そして,このAC信号を基準に各回路のACゲインをイニシャライズすることで,被測定信号のレベルを正確に測定することが可能になります.
つまり,AC信号をディジタイズした後,FFTによりゲインを求め,それに基づいて回路のゲインを変化させるということを繰り返して,回路内の増幅器のゲインを合わせ込むことができるのです.
...電子回路設計ノート