電気単位・デシベル表現


目的
 1) これから仕事で使うことになる電子工学の単位について基礎を理解すること.
 2) dB(デシベル)の取扱いに慣れ,仕事に生かせること.
以上の2つを今回の目標とします.

●SI単位を知ろう
 測定をすると,必ずその測定値には単位が付きます.測定をしていると,それは絶対値なのか?ということを聞かれることがあります.つまり,測定には,比較測定と,ある国際基準に基づいた絶対測定があるのです.
 比較測定をした場合,その測定値に単位はありません.そのかわり,“比”があまりに大きい場合にはdB(デシベル)表現されたりします.このdBについては,後々考えることにします.

 私達が,日頃使う単位は,SI単位と呼ばれるものです.これは,1960年に国際度量衡総会(CGPM)がMKSA単位系を拡張して制定したものです.SI単位とは,英語では,The International System of Unitsといいます.あれっ?それじゃ,IS単位ではないのか?と思いそうですが,実は,このSIというのはフランス語(Le Systeme international d'Unites)の略なのです.

 SI単位は,大別して

     
  1. 基本単位
  2.  
  3. 組立単位
で表すことができます.
 組立単位は,基本単位を使って表すことができ,その単位も多岐に及ぶため,実際に自分達が使う単位について,その都度,学べば良いと思います.引用文献1),2)等を参考にしてください.しかし,基本単位は,SI単位の基本となるものですので,教養として最低限,頭に留めておくことにします(仕事をし始めると,細かな定義は覚えていられませんので,この本に載っている・・・といった形で覚えておくと良いでしょう).

 最初に,SI単位はMKSA単位を拡張したと言いましたが,このMKSAとは一体何なのでしょうか? これは,長さの単位(メートル),質量の単位(キログラム),時間の単位(秒),電流の単位(アンペア)の略です.そこで,これらのMKSAからその定義について見ていきます.以下の定義は文献1)からの引用です.



長さの単位(メートル)

 メートルは,1秒の299792458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さである.

質量の単位(キログラム)

 キログラムは質量の単位であって,単位の大きさは国際キログラム原器の質量に等しい.

 ちなみに,国際キログラム原器は,フランス公文書館に保存されています.原器は,10±0.01%のイリジウムを混ぜた白金合金で作られることとされています.

時間の単位(秒;Second)

 秒は,セシウム133の原子(温度0Kのもとで静止した状態)の基底状態の2つの超微細構造準位の間の遷移に対応する放射の周期の9192631700倍の継続時間である.

電流の単位(アンペア)

 アンペアは,真空中に1メートルの間隔で平行に配置された無限に小さい円形断面積を有する無限に長い2つの直線状導体のそれぞれを流れ,これらの導体の長さ1メートルにつき2×10-7ニュートンの力を及ぼし合う一定の電流である.

 さて,ここまでが,MKSA単位です.この単位に以下の単位を付け加えるとSI単位となります.

熱力学温度の単位(ケルビン)

 熱力学温度の単位,ケルビンは,水の三重点の熱力学温度の1/273.16である.

 私達が良く使うのはセルシウス温度(摂氏温度)℃です.温度差を表す場合は,Kでも℃でも同じですので,あまり気にする必要はありません.
 電子回路の勉強を進めるうちに登場する,熱雑音などの計算をするときは,℃をKに変換する必要がありますが,このときは,
 T[K]=t[℃]+273.15
を計算すれば変換できます.

物質量の単位(モル)

     
  1. モルは,0.012キログラムの炭素12の中に存在する原子の数に等しい数の要素粒子を含む系の物質量であり,単位の記号はmolである.
  2.  
  3. モルを用いるときは,要素粒子(entites elementaires)が指定されなければならないが,それは原子,分子,イオン,電子,その他の粒子又はこの種の粒子の特定の集合体であってよい.
 補足:この定義の中で,炭素12の原子は結合しておらず,静止しており,基底状態にあるものを基準とすることが想定されている.

光度の単位(カンデラ)

 カンデラは,周波数540×1012ヘルツの単色放射を放出し,所定の方向におけるその放射強度が1/683ワット毎ステラジアンである光源の,その方向における光度である.


●電圧標準と抵抗標準
 私達は,電気屋さんですから,これらの基本単位のほかに,電圧と抵抗の標準についても復習しておきます.以下は,文献2)からの引用です.

電圧標準

 ジョセフソン素子に周波数f[GHz]の電磁波を照射したときに取り出される量子化電圧Vは,V=nf/KJ-90[V]の値をもつものとする.ここで,nは整数,KJ-9-はジョセフソン定数KJの1990年協定値でKJ-90=483597.9[GHz/V]と定義される.

この定義に基づき,電圧標準が決まっています.

抵抗標準

 高磁場,極低温下で半導体の示す量子化ホール抵抗RHは,RH=RK-90/i[Ω]の値をもつものとする.ここで,iは整数,RK-90はフォン・クリッツィング定数RKの1990年の協定値で,RK-90=25812.807[Ω]と定義される.

●測定器には標準器が存在する
 これらの標準器は日本国内であれば,総務省 産業総合研究所(旧 通産省工業技術院 電子技術総合研究所)にあり,測定器を作っているメーカでは,産総研の標準器で値付けした会社用の標準器を持っています.
 測定器には,かならず国際原器や,国際標準と呼ばれるものがピラミッドの頂点にあります.その頂点の装置から,芋づる式に値付けされるようになっています.この芋づるの体系をトレーサビリティ体系と言ったりします.ピラミッドの下に行くほど,当然,測定誤差も大きくなります.

 ちょっと余談ですが,以前,車のスピード違反で捕まったときに,ちょっと警官ともめて,「この機械の測定誤差はどのくらいなんですか?」と聞いたことがあります.そのとき取り締まっていた警官は,ちょっと程度の低い方だった(^^; ようで「俺達は,自信を持って取り締まっているんだ 測定誤差なんかない!」と豪語しました.測定器を使う人,作る人であれば,この警官の言ったことは失笑に値することがわかると思います.測定器を使うときは,絶対に誤差があると覚えておきましょう.「俺は自信を持っているんだ!」と,上司,先輩に言ったら,きっと笑われます(^^;
#警官は,「誤差はあるけど,低めに出る!だから,あなたは確実にスピードを超過している」と言えば良かったんです.「誤差はない!」では,あまりにも間抜けです(^^;

●トレーサビリティ体系図は血統書
 ちなみに,測定器をメーカに校正(オーバーホール)に出すと,トレーサビリティ体系図が添付されて帰ってきたりします.これは,ちゃんとした由緒ある標準器にしたがって値付けしていますよ・・・という証明のようなものです.いわば,測定器の血統書のようなものです.

●その他,電気で使う単位
 電気で使う単位には,このほかに磁場に関するもの,時間に関するものなどがあります.

インダクタンス
 磁場に関するもので,回路屋さんが良く目にするのは,自己インダクタンス[ヘンリー:H]でしょう.インダクタンスには,自己インダクタンスと,相互インダクタンスがあるのですが,普通の単体のコイルによって得られるインダクタンスは自己インダクタンスです.自己インダクタンスは,Δt[s]間にΔI[A]の電流変化が生じた場合,コイルに発生する起電力e[V]から定義されます.つまり,e=-L・(ΔI/Δt)であり,このときの比例定数:Lのことを自己インダクタンスと言っています.もし,細長い配線があって,この配線に流れる電流がもの凄く短い時間に変化したとき,両端の電圧に変化が生じれば,この配線はただの配線ではなく,コイル:Lだと解釈しなければならないということです.

ファラド
 コンデンサ:Cの静電容量は,[ファラド(実際の発音に近づけて表記すると,ファラッド):F]と表記されます.Q=CVという式を覚えているでしょうか? この式のCが,静電容量のことです.Qは電荷を表します.1クーロンは,1アンペアの電流によって1秒間に運ばれる電気量のことです.つまり,1Q=1A・sです.Vは電圧[V]です.

周波数
 時間に関するものでは,周期の逆数をヘルツ[Hz]と呼び,周波数の単位としています.昔の文献では,[c/s]と書かれていたりします.これは,サイクル/秒のことで,ヘルツと同じ意味です.なんだか,昔の単位のほうが,周波数と言うもののイメージが沸きそうだと思うのは,きっと私だけではないと思います・・・

 ところで,私達は電気屋さんですので,電圧や電流と言ったものがエネルギーではないということを知っているはずですが,普通の人(例えば,飲み屋で隣に座った人???)が知っているとは限りません.エネルギーとは,電気の世界ではワット[W]と表現されているものです.1[W]は,1Ωに1Vの電圧をかけたときに消費される電力です.一方,物理で言うところの仕事は,ワット秒[W・s]や,ジュール[J]で表現されます.なお,1[J]=1[W・s]です.電力会社に支払っている電気代はワット・アワー[W・h]で決まりますので,電気による仕事量に対して代金を支払っていると言えます.
 電圧はエネルギーではないということから,手が1kVの電圧源に触れたら死ぬか? と,もし普通の人に聞かれたら,死ぬとは限らないと答えましょう.たとえ,1kVの電圧であっても,電流が非常に小さければ,エネルギーは小さいからです.例え話としては,冬場の静電気を挙げると良いかも知れません.あのパチンとくるやつは,火花や,音が出るくらいの電圧なので,十数kVはあるはず.しかし,このパチパチ静電気で死ぬことはありませんよね? 電子部品は死んでしまうこともありますが.


●デシベルについて
 単位の話はこのくらいにして,次に電気屋さんが良く使うデシベル[dB]というものについて復習していきます.

 デシベルには,次の2つの計算方法があります.

10log10(P1/P0)

20log10(V1/V0)

 10log...の方は電力比を計算するときに用いられます.基本はこの10logであると認識しておいてください.電圧の場合(電流の場合)に20log...となるのは,電圧や電流の2乗が電力に比例するためです.
 デシベルは,あくまでも2つの量の比を表しているだけなのですが,dBmや,dBμといった単位を見かけた場合には注意が必要です.これらの単位は,デシベルとついていますが,量そのものを表しているからです.

0[dBm]=10log(P/0.001)

と定義されています.これは,1mWの電力を基準にしたときの電力のことです.一方,dBμは,

0[dBμ]=20log(V/1×10-6)

と定義されています.電界強度の単位などで,1μV/mを基準にして,dBμ表示されていることもあります.また,1Vrmsを基準としてdBVという表記がされている場合もあります.

●デシベルと呼んでいない???
 今まで,dBのことをデシベルと呼んできましたが,仕事をし始めると,多くの人がデシベルと言っていないことに気がつくと思います.多くの場合,これらは,「デービー」とか,「デシ」とか呼ばれます.

「このアンプのゲインが10デービーだから・・・」とか,
「f特がここで,1デシ落ちるから・・・」といったカンジです.

 dBmは,「デービーエム」と呼ばれたりします.これらの呼び方は,あくまで業界用語のようなものです.周波数特性のことをf特(エフとく)と呼ぶのも電気屋さん特有です.

●デシベル表現のメリット
 デシベルについて,ごく簡単に説明しましたが,なぜ,わざわざデシベル表現するのでしょうか? 学生時代に対数を取ると,掛け算を足し算にでき,割り算を引き算にできるという説明を聞いた記憶がある人も多いと思います.つまり,多段の増幅器などのトータル・ゲインの計算が簡単にできるというものです.しかし,これだけがデシベルのメリットでしょうか? 実は,デシベル表現には,もっと大きなメリットがあるのです.
 それは,対数圧縮ができるということです.例えば,電圧利得で10倍は,20dBです.1000000倍は120dBです.二つの間には大きな数値の違いがあるのですが,デシベルにしてしまえば,100しか違わないことになります.

 高調波ひずみ等を表記する場合に,dBcという表現を使う場合があります.このときのdBcは量を示しているわけではなく,c(キャリア)に対する比を表現しているだけです.
 基本波が5dBmで,高調波レベルが-40dBmであった場合の高調波レベルを-45dBcと表記します.したがって,dBcで表記されている場合は,キャリア(基本波)のレベルはどのくらいなのか?に注意しておく必要があります.


課題

 次に,問題を解きながら,電気単位とデシベルについて理解を深めましょう.

[問1]
次の単位の意味を,他の単位を使って説明してください.

  1. mA(Ω,Vを使って説明してください)
  2. mH
  3. F
  4. C
  5. S
  6. Hz
  7. W

答え

[問2]
dB(デシベル)に換算してください.

  1. 1Vに対して10Vは何dBですか?
  2. 2mVに対して,10Vは何dBですか?
  3. 1mWに対して,3Wは何dBですか?
  4. 入出力電圧の比が1500倍のアンプのゲインは何dBですか?
  5. 5Vに対して,1Vは何dBですか?
  6. 2Wに対して,5μWは何dBですか?
  7. 10Vを入力して1μVが出力される減衰器の利得(減衰率)は何dBですか?

答え

[問3]
単位の変換をしてください.

  1. 2VrmsをdBVで表記してください.
  2. 30mWをdBmで表記してください.
  3. 2μVをdBμで表記してください.
  4. 6mVをdBVで表記してください.
  5. 3Vp-pの正弦波をdBVで表記してください.
  6. 15dBμの正弦波の振幅をVrms,およびVp-p表記してください.
  7. -10dBmは何Wですか?また,インピーダンス50ΩとしてVrms表記してください.

答え

[問4]
次の値を求めてください.

  1. アンプの仕様にTHD(全高調波歪み率)=0.0007%と記載されていました.これをデシベル表記してください.
  2. 電圧ゲイン10倍のアンプを試作したところ,+1%のゲイン誤差が生じました.このゲイン誤差をデシベル表記するとともに,実際のゲインを答えてください.
  3. 電圧ゲイン6倍のアンプを試作したところ,+0.5%のゲイン誤差が生じました.このゲイン誤差をデシベル表記するとともに,実際のゲインを答えてください.
  4. 電圧ゲイン5倍のアンプを3段直列に接続しました.全体の利得は何dBになりますか? 5倍をdBにして計算する方法と,5倍のまま計算する方法の2つについて答えて下さい.
  5. 下のブロック図のA点からD点の振幅(Vrms,およびVp-p)を求めてください.また,全体の利得(dB)を求めてください.

答え

問題は以上です.
 電気単位とデシベルについて,簡単に復習してきました.これからもいろいろなdB表現に出会うことがあると思います.そのときは,デシベルはあくまで「比」を表しているだけなんだということを思い出してもらい,そのdB表記の基準値は何か?ということに注意してもらいたいと思います.


参考文献
1) 工業技術院計量研究所訳・監修:国際文書第7版 国際単位系(SI)―グローバル化社会の共通ルール―, 日本規格協会,1998
2) 国立天文台編:理科年表 平成8年,丸善,1996
3) 吉本猛夫:トランジスタ技術SPECIAL No.50,特集「フレッシャーズのための電子工学講座」,CQ出版,1995

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