IP3の測定


 この文章は,次の資料を私が邦訳したものです.

Measuring IP3


Bob Myers

Application Engineer, Wireless Semiconductor Division

Agilent Technologies, Inc.

基本的に意訳です.また,誤訳もあると思いますので,より正確な情報を得るためには,原文をダウンロードしてください.


要旨:MGA-72543のような低ひずみなデバイスにおける3次インターセプトポイントの正確な測定には,測定系や測定器の選択に気をつけ,いくつかの配慮が必要である.ここでは3次インターセプトポイントの測定を成功させ,入力および出力インターセプトポイントを算出することに焦点をあて議論する.

はじめに

 MGA-72543の相互変調ひずみを正確に測定するには,測定系に注意しいくつかの配慮が必要である.ここでの議論は,3次相互変調ひずみと入力,もしくは出力インターセプトポイントの計算方法に焦点をあてる.
 相互変調ひずみの基本的な測定法をFig. 1に示す.


Fig. 1 基本的な相互変調ひずみ測定法

 基本的な相互変調ひずみ測定法では,2つの基本波信号を混合し試験デバイス(DUT)への入力信号として用いる.DUTによって生じた3次ひずみはスペクトラムアナライザによって測定される.

 比較的低ひずみなデバイスを測定する際に,考慮しなければならない誤差要因が3つある.それらは:

である.


測定器間の干渉

 2つの信号発生器の出力を混合するための良い方法として,抵抗を使用した電力混合器を用いたものがある.抵抗を使用した混合器は,3ポートのマッチングが良く,DUTや信号発生器のどちらに対しても,電力に依存することのない一定のインピーダンスを有するといった特長がある.加えて,抵抗を使用した混合器は周波数の影響が小さく(広帯域),ほぼ完全な線形性を持っているため,混合器自身が発生する相互変調ひずみがない.

 相互変調ひずみを測定する上で,もっとも重要な配慮は,2つの信号発生器の間に十分なアイソレーションを確保することである.2つの信号発生器間のアイソレーションが十分でないと,信号発生器のALC回路(訳注:Automatic Level Control回路)が干渉し,大きな相互変調ひずみが発生してしまうことになる.信号発生器間のアイソレーションを確保する最適な方法は,各々の信号発生器と電力混合器との間に強磁性体(ferromagnetic)アイソレータを配置することである.

 次善策は,アイソレータを10〜20 dBの固定アッテネータで代用することである.アッテネータを使用する方法は,アイソレーションは大きくなく,さらにアッテネータによる減衰を補うために信号発生器の出力レベルを増加させているため,その信号にひずみが加わっている可能性があるのだが,測定系の広帯域化といった点では有利である.

 電力混合器とDUTの入力ポート間に配置された6〜10 dBの固定アッテネータは試験デバイスを定インピーダンスとみなせるようにし,測定をより確実にするために追加したものである.同様に,試験デバイスの出力のアッテネータは,DUTとスペクトラムアナライザとのマッチングを良好にするためのものである.
 Fig. 2に測定精度を向上させた測定系の構成を示す.


Fig. 2 改善後の測定系


測定器のダイナミックレンジ

 インターセプトポイントの高いデバイスを測定するときの問題の1つは,ダイナミックレンジである.大きな基本波信号が存在する状態で非常に小さな相互変調ひずみを同時に測定するときに広ダイナミックレンジが必要となる.スペクトラムアナライザのダイナミックレンジであるが,その下限値は,スペクトラムアナライザの感度やノイズフロアにより決まる.また,上限値は,スペクトラムアナライザ自身で発生するひずみが測定に影響しないくらい低いレベルを維持できる最大入力信号レベルによって決まる.

 スペクトラムアナライザへの過大入力は,内部ひずみを生じさせる恐れがあり,DUTで実際に発生するひずみを測定できないことになる可能性がある.スペクトラムアナライザのダイナミックレンジを最大にするためには,入力信号レベルを3次相互変調ひずみが観測できるまで,可能なかぎり小さく一定に保つことである.

 スペクトラムアナライザへの入力信号レベルが大きすぎることにより内部ひずみが発生していないことを簡単にチェックするには,入力高周波アッテネータを10 dBずつ増加させ,相互変調ひずみのレベルが変化しないことを確かめてみるとよい.もし,入力アッテネータを切り替えることで相互変調ひずみのレベルが変化するようなら,アナライザ内部でひすみが発生している.つまり,その入力信号レベルでは大きすぎるため,正しく測定できないということである.


測定器の性能と精度

 相互変調ひずみの測定精度に影響する他の要因は,測定器の性能に関係がある.2つの基本波信号源として,シンセサイズド信号発生器を選択することを推奨する.測定感度を改善するには,信号発生器の低雑音オプションを選択したいところである.

 さらに,測定精度はスペクトラムアナライザの性能も影響している.重要なキーは,十分なダイナミックレンジを持ったものを選ぶことである.低雑音オプションは,低レベルの相互変調ひずみを観測するうえでの測定感度改善としても有効である.


インターセプトポイントの算出

 相互変調ひずみの正確な測定の後,3次インターセプトポイントは次式により算出できる:

OIP3 = Po + ΔIM/2

 ここで,OIP3はDUTの出力に関する3次インターセプトポイント[dBm]である.Poは,2つの基本波信号どちらかの出力電力レベル[dBm]である.相互変調ひずみは,基本波と,3次相互変調によるスペクトルとの差の信号レベル[dB]である.Fig. 3にスペクトラムアナライザにより観測された信号レベルを示す.


Fig. 3 基本波と相互変調信号


 入力3次インターセプトポイントは次式により算出できる:

IIP3 = OIP3 - Gain

 ここで,IIP3はDUTの入力に関する3次インターセプトポイントであり,Gainはデバイスのゲイン[dB]を表す.


まとめ

 MGA-72543のような低ひずみなデバイスのIP3測定を成功させるためのキーは,シンセサイズド信号発生器を使用すること,信号源の間を効果的にアイソレーションすること,保証されたスペクトラムアナライザを使用し,相互変調ひずみの測定に影響を与えないようにすることである.その他,測定系をより良好なものとするには,特に使用する測定器への信頼性も必要になるであろう.

...電子回路設計ノート


webmaster[at_mark]kawakawa.net([at_mark]は,“@”に置換してください.)