MTBFのはなし


 MTBF(Mean Time Between Failures)は日本語で,平均故障間隔と言います.これは,修理しながら使用することを前提とした機器(システム)で実際に稼動している時間の平均を表しています.修理しながら使用することを前提としているなら,修理している時間は何て言うんだ? という疑問がわいてくると思いますが,これは,MTTR(Mean Time To Repair)といい,日本語では平均修理時間と呼んでいます.このMTBFとMTTRをマンガで描くと以下のようなイメージになるのでしょうか?

MTBFの期間は,しっかり動くことができるのですが,MTTRの期間は“ずっこけている”ということですね.

 実は,このMTBFとMTTRを使って,MTBF/(MTBF+MTTR)を計算すれば,それは稼働率と呼ばれる指標となります.
 さて,このMTBFですが,一体,何の役に立つのでしょうか? いくら言葉を知っていても,それが何の役に立つのかわからなくては何の意味もありませんね.実は,このMTBFは,私達が設計した機器(システム)の信頼性を予測するのに役立つのです.つまり,MTBFがなるべく大きくなるような設計をすれば,その機器の信頼性は高いと言えます.

 設計時にも役に立つMTBFの使い方としては,「部品点数法」と呼ばれるものがあります.部品点数法によって機器の故障率を算出するには,使用する部品の故障率が必要になります.そこで,まず部品故障率について説明しておくことにします.故障率λは,次式で計算されます.

 この式からわかるのは,部品1個が109時間動作して,故障が1件なら故障率は1ということです.同じ部品が100個あって,107時間動作し,故障が1件なら,これも同じように故障率は1となります.昔,信号処理とか統計を少しかじった人なら,ピンとくる方がいるかもしれませんが,故障と言う現象はエルゴード性を有していると考えているわけです.なお,この109時間あたりの故障率をFITという単位で表します.もし,部品メーカ(商社)から,部品の品質情報の提示を要求できる立場にある方なら,このFITという単位を見たことがある方もいるのではないでしょうか?

 機器に使用している各部品の故障率λが算出できれば,これを部品のタイプ,使用個数で分類・集計することによって,簡単にその機器の故障率を求めることが出来ます.算出式を以下に示します.

 実際には,この式に基づき,部品表で各部品タイプ別に個数をカウントし,使用個数niを求めます.次に,各々の部品の故障率λiをniに乗算します.最後にこれらλi×niの合計を求めれば,その機器の故障率が求まります.
 最後に,この故障率の逆数をとることでMTBFとなります.


 さて,普通は,これだけの話なのですが,設計時にMTBFを考慮してなるべく信頼性の高い機器を設計しようと考えた場合は,周囲温度の影響も考慮したいところです.なんとなく,感覚的に温度が上がれば寿命が短くなるんじゃないか?と思っている人は多いと思います.この感覚的な問題を定式化したのが「アレニウスの経験式」と呼ばれるものです.このアレニウスの式については,物理化学の本や,反応速度論といった化学系の文献を当たればおそらく載っていると思います.ここでは,以下の図を使って,簡単に説明することにします.

 上図の左側に示した式が物理化学の本などに載っているアレニウスの式です.この式が意味するのは,温度Tが大きくなるほど,Ea/RTの比は小さくなり,これによって反応速度定数が大きくなるということです.つまり,温度が上がるほど,反応は早く進むということです.
 これを部品に置きかえれば,正常動作している部品(反応前)は,ある活性状態に至るまでにそれなりのエネルギーが必要なので,すぐには故障しないのですが,温度が上がると反応速度定数が増大し,通常よりはやく活性状態に達して,そのまま故障(反応物)に至ってしまうと言うことです.

 さて,温度が上がると寿命が短くなることはわかったのですが,エネルギーっていう考え方ではなく,時間(寿命)で表現してくれたほうがわかりやすいですね.
 一般に,寿命部品の代表といわれるのが,電解コンデンサです.通常の電解コンデンサでは,電極と誘電体(アルミナ)間の電気伝導にイオン伝導が用いられています.イオン伝導を生じさせるために電解液が用いられているのですが,この電解液は液体なので時間がたてば蒸発(ドライアップ)してしまいます.

 電解コンデンサの寿命は以下の式で表されます.

 温度加速係数は,通常2で問題ないでしょう.この関係は,10℃2倍則というような形で聞く方が多いのではないでしょうか? 回路設計がご専門の方は,アレニウスの法則=10℃温度が上昇すれば寿命は半分になるといった形で記憶している方が多いと思います(実は,私もこの形で人に説明することが多いです).

 一方,半導体の寿命は,どのように考えればよいのでしょうか? 半導体の場合の寿命時間は以下の式のように表されます.

 さて,この式で表されるとはいえ,この式は定数だらけです.したがって,定数がいくらなのか知ることが出来なければ,寿命を割り出すことができません.
 これらの定数は,半導体の集積度や,プロセス,材料に依存するものなので,製造メーカに問い合わせるしかありません.

 さて,以上の考え方に基づけば,それなりにMTBFを活用することが出来るかと思います.実際には,ディレーティングによるマージンなども考慮する必要が出てくることもあるでしょう.そういう場合は,参考文献をご参照頂きたいと思います.

 設計が終わって,CADで回路図を入力すれば,部品が集計されてMTBFが算出されるという環境で仕事をされているエンジニアが多いのではないでしょうか? 実際,私もそうです.しかし,これでは,せっかくのMTBF予測を有効利用しているとは言えないのではないでしょうか? 最初に機器の耐用年数を考え,それに基づいてMTBFを決定し,そのMTBFが確保できるように部品の選定,そして回路構成を決めるべきもののような気もします.部品の信頼性が上がった現在では,回路構成の決定にMTBFを使用するのは効果的でしょう.何しろ,この回路構成のほうが,寿命から見てこれだけ有利だと数値化して議論できるのですからね.
 自分への戒めの意味もこめて,信頼性自体を回路設計に盛り込めるようなエンジニアになりたいものです.


参考文献
伊勢蝦鶴蔵:MTBFの実用計算法のすすめ,トランジスタ技術2001年7月号,pp.267-274,CQ出版
薊 利明,竹田俊夫:わかる電子部品の基礎と活用法,CQ出版,1996
D.アイゼンバーグ/D.クロサーズ,西本吉助・影本彰弘・馬場義博・田中英次共訳:生命化学のための物理化学[上],培風館,1995
石坂充弘:データ通信システム入門,オーム社,1994

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