ダイオードの逆回復時間とステップリカバリダイオード


 ダイオードの逆回復時間は,少数キャリア蓄積効果によって生じているものです.半導体工学なんかの本を紐解いてもらえるといいのですが,PN接合ダイオードに順方向電圧を加えると,空乏層を越えてp型,n型領域に少数キャリアが注入されます.この少数キャリアが拡散・再結合することで順方向電流が流れています.さて,ここで電圧の向きを急激に変えて,逆方向電圧を加えるとどうなるでしょうか? 「ダイオードが急激にOFFして,電流が流れなくなる」とすれば,それは,非常に理想的なダイオードです.実際に,高速スイッチングに使われるショットキ・バリア・ダイオードなんかはこの逆回復時間が非常に短くなるように設計されています.普通のシリコン・ダイオードは,いったん逆方向電流が流れ,徐々に(だらだらと)回復していきます(0[A]へ漸近していきます).
 すこし,具体的に考えてみます.順方向電圧をPN接合ダイオードに印加すると,p型領域には伝導電子が,n型領域には正孔が注入されます.ここで,電圧の向きが順方向から逆方向に変わると,p型領域に注入されていた電子はそこで再結合したり,n型領域に移動したりして消滅します.n型領域の正孔も同じようにそこで再結合したり,p型領域に移動します.つまり,電流の向きが順方向から逆方向に変わった直後にも少数キャリアの再結合や拡散が生じているわけです.しかも,少数キャリアが移動する向きは順方向のときとは逆です.これによって逆方向電流が流れることになります.
 以上の現象を頭の片隅に留めておいてもらって,ステップ・リカバリ・ダイオードの動作について見ていくことにします.SRDのスイッチング特性の模式図を下図に示します.

 ここで,

If :順方向電流
Ir :逆方向電流
τ :寿命時間(少数キャリアライフタイム)
ts :遅れ時間
tt :遷移時間
tf :順方向伝導時間
とします.このとき,tsは次式で表されます.

ここで、tf>>τならば,tsは以下の式で近似されます.

 SRDの特徴はttが非常に短いことにあります.上にも書きましたが,普通のシリコン・ダイオードはttがだらだらと長くなっています.また,ショットキ・バリア・ダイオードはtsttが非常に短くなっています.SRDはtsをある程度維持したままttを非常に短くしたダイオードであるといえます.SRDのttは数十psと非常に高速です.
 SRDの応用例としては,ttが短く高速スイッチングが可能であることを利用した高速パルス発生器などがあります.

...電子回路設計ノート


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