部品温度の測り方


 電子回路に使われる半導体部品の中には,比較的大きな発熱をともなうものがあります.そのため,発熱の程度によって放熱対策が必要になります.放熱の考え方については,私自身そんなに詳しくないので,文献をご参照頂くとして,ここでは,実際にユニットやシステムが完成して,放熱対策がうまくいっているかどうかを確かめる方法についてまとめておきます.ちなみに,参考文献に挙げた1)の本は,電子回路設計者が最低限知っているといいだろうなぁという熱設計の話が書かれているので,持っておいて損は無いと思います.

 部品のデータシートを見たとき,θjcとか,θjaとかいった記述を見かけたことはありませんか? 実は,放熱対策がうまくいっているかどうかを確認するときは,そのθjcやθjaの情報が必要になります.ここで,θjcは,半導体部品のジャンクション(PN接合部分を想像してください)から部品のケースへの熱の伝わりにくさを表しています.一方,θjaは,半導体部品のジャンクションから周囲への熱の伝わりにくさを表しています.θjcもθjaも単位は[℃/W]で熱抵抗と呼ばれています.単位からも想像できるように,これらは1W熱を伝えることで,どのくらいその部分の温度が上がってしまうのか?ということを表しています.

 さて,放熱設計のとき,半導体部品で許容できるジャンクション温度を決めたと思います.ちなみに,FETなどでは,ジャンクション温度と呼ばずにチャネル温度と言ったりします.部品のデータシートを見ると,最大許容ジャンクション温度(Tjmax)が規定されています.多くの場合150℃だったりすると思います.その値を参考に設計したと思いますが,150℃まで耐えれると思って,ぎりぎりの設計をすると信頼性が著しく低下したりしますので,実際はジャンクション温度が90℃以下になるように設計したりします.

 さて,ここからが本題です.どこの温度を測ればジャンクション温度が設計通りになっていることの確認ができるのでしょうか?
 答えは,データシートにθjcが書かれている場合は,部品のケース温度を測定し,θjaが書かれている場合は,その部品の周囲の温度を測定してみることです.

 部品のケースの温度を測定する場合は,測定によって,熱の状態が通常使用の場合と異なってしまうことを避けなければなりません.回路屋さんは,電子回路をデバッグしているときに,オシロスコープのプローブが当たれば,回路に影響があることは知っていても,温度を測るときは,案外大雑把になってしまい,熱電対を部品にテフロン・テープで張りつけるといったことを平気でやったりしてしまいます.また,何も考えずに太い熱電対を部品に付けることも駄目です.太い熱電対をつければ,それが放熱器のように作用して熱の状態が変わってしまいます.
 部品の温度を測るときは,なるべく先の細い熱電対を使用し,部品表面にシリコングリスを塗り,これを接着剤のかわりにして,熱電対を接触させるか,アルミテープなどの熱伝導性の良いもので熱電対を覆うようにします.

 次に,周囲温度を測るときですが,これは一筋縄には行きません.基板上での周囲温度と言っても,場所によって大きな違いがあるからです.文献によると,発熱部品の近くにある発熱のない部品(コンデンサや,機構部品,プリント基板など)の表面温度を測っておくと良いそうです.当たり前と言えば当たり前なんですが,近くにあるからといってヒートシンクの温度を測ったりしないようにしましょう.
 とはいえ,周囲温度を測るのは,やはり大変ですので,できればメーカにθjcを問い合わせるのが良いようです.

さて,それぞれの温度が測定できたら,ジャンクション温度は以下の式によって計算できます.



部品の表面温度からジャンクション温度を算出する場合

ジャンクション温度[℃]=θjc[℃/W]×部品の消費電力[W]+部品の表面温度[℃]


部品の周囲温度からジャンクション温度を算出する場合

ジャンクション温度[℃]=θja[℃/W]×部品の消費電力[W]+部品の周囲温度[℃]

計算によって,ジャンクション温度が設計値以下であれば,めでたしめでたしとなります.


参考文献
1) 国峰尚樹:エレクトロニクスのための熱設計完全入門,日刊工業新聞社,1997
2) 戸川治郎:実用電源回路設計ハンドブック,CQ出版,1997

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