アクティブ・フィルタには伝達関数の種類に応じて,いろいろなものがあります.代表的な特性としては,以下の5つのものがあります.
1) バタワース特性
通過域が平坦で無難な特性であるため,あまり厳しい特性要求がない場合などに一般的に使用されます.米国ではButterworth,欧州ではWagnerと呼ばれます.周波数-位相特性が平坦ではないため,遮断周波数付近の周波数成分を含むパルス波形を通すと歪みます.
2) チェビシェフ特性
通過域にリプルを持たせることで減衰特性(減衰傾度)を急峻にしたものです.一般にリプル量を多くするほど減衰特性は急になりますが,その分,位相特性も乱れることになります.つまり,パルス波形を通すと歪みます.正弦波の歪みを取り除くときなどに良く使われます.米国では,Chebyshev,欧州ではTchebyshevと呼ばれます.
3) 逆チェビシェフ特性
チェビシェフ特性は,通過域にリプルを持たせていましたが,逆チェビシェフでは阻止域にリプルを持たせています.そのため通過域特性はフラットになります.1)〜5)のフィルタの中では,一番使われることが少ないフィルタです.
4) ベッセル特性
通過域において,周波数-位相特性が平坦であるため,パルス波形を通しても歪みません.そのため,パルス回路に良く使われます.ただし,減衰特性はなだらかなであるためひずみを取り除くといった効果はあまり得られません.米国では,Bessel,欧州ではThomsonと呼ばれます.
5) 連立チェビシェフ特性
米国では,Elliptic,欧州ではCauerと呼ばれます.最近は,日本でもこの名称:連立チェビシェフ特性で呼ばなくなってきており,エリプティック特性と書かれていたりします.
減衰域にノッチを入れることによって,より減衰傾度を急峻にしたフィルタです.2次高調波歪み成分などを除去したい場合や,現実的な次数のチェビシェフ・フィルタでは性能が得られない場合などに使われます.
これらの,フィルタの種類や特徴などは,一度に覚える必要はありません,必要に応じて,自分で設計しながら少しずつ覚えていくと良いでしょう.
つぎに,自分が必要とするフィルタを誰かに設計してもらうことを考えます.フィルタに対する知識があれば,○○特性の何次のフィルタを設計してくださいと依頼することもできますが,この指示ができるようであれば,フィルタの正規化表などを使って自分で設計することも可能だといえるでしょう.
ここでは,ある高調波ひずみや,スプリアスを○dB減衰させたいから,こんな周波数特性のフィルタがほしいという場合の指示の仕方を考えます.こんなときに役立つのは,次に示すテンプレート方式によるフィルタ仕様の表現です.
図では,低域通過フィルタ(LPF)を想定していますが,同様に高域通過フィルタ(HPF)や帯域通過フィルタ(BPF)等のフィルタ仕様もこの方法で記述できます.
つまり,フィルタ設計で必要になる情報には,
1) 通過域の許容リプル(フラットなほうがいいのか? リプルを含んでもいいのか?)
2) 通過域のエッジ周波数
3) 阻止域のエッジ周波数
4) 3)のポイントでの減衰量
5) 入出力インピーダンス
といったものがあります.もし,パルスを通過させると言う場合には,ベッセルフィルタを選択することになりますので,1)〜5)とは別に,通過する信号はどういったものか?ということも伝える必要があります.
フィルタには受動素子(LCR等)のみで構成したパッシブ・フィルタと,能動素子を使用したアクティブ・フィルタの2つに大別することができます.
それぞれ一長一短あるのですが,主に低周波ではアクティブ・フィルタ,高周波ではパッシブ・フィルタが使われることが多いです.
さて,フィルタについての概要はこのくらいにして,次に具体的な課題を考えながらアクティブ・フィルタとして良く使われるVCVS型フィルタについて学んでいきます.VCVS型フィルタでは,オペアンプを使ったボルテージ・フォロワが使われます.
ここで,VCVS型のフィルタを考える前に,ボルテージ・フォロワについて復習しておきましょう.
以下に,ボルテージ・フォロワを示します.
ここで,Viおよびeoは以下のように表すことができます.
なお,Aはオペアンプの開ループゲインを表しています.
Viの式を変形していくと,
となり,A→∞であれば,Vi→0となります.これが学生時代に学んだバーチャル・ショートというものです.
次に,ボルテージ・フォロワのゲインについて考えてみます.
よって,A→∞であれば,Gain→1となります.
さて,次から課題です.学生時代のことを思い出しながら考えてみましょう.
課題
以下の図は,2次VCVS型LPF回路と周波数特性,およびC1,C2の算出式を示したものです(このLPF回路は開発者の名前からサレン・キー(Sallen-Key)回路と呼ばれたり,正帰還型と呼ばれることもあります).この図を眺めて,次の問いについて考えてみてください.
上から順に,Q=10, 5, 2, 1, 0.7, 0.5と変化させたときの周波数特性
[問1]
このフィルタ回路におけるQは何を表していると考えられますか?
周波数特性から考えてみてください(ヒント;Qの対数を計算してみてください).
[問2]
このフィルタ回路のQは,ある2つの素子値によって決まっていると考えられます.
Qの算出式を立ててみてください(ヒント;C1とC2の式を使います)
[問3]
2次LPFの伝達関数A(jω)は,次式で表されます.
フィルタの次数は,式の何によって決まっていると考えられるか答えて下さい.
(ヒント;分母に注目してみましょう)
[問4]
これから2次VCVS型LPF回路の解析をしようと思います.
等価回路は,以下に示すようになります.
回路方程式を立ててみましょう.
なお,このときボルテージ・フォロワのゲインはANFとします.
[問5]
問4で求めた等価回路を解いて伝達関数A(jω)とQの算出式を求めてみて下さい.
[問6]
ωcの算出式を示し,C1,C2の算出式を求めてみましょう.
ここで,ANF=1,R1=R2=Rとします.
[問7]
さて,今までの問題はちょっと難しかったかも知れません.「やっぱり,俺は回路屋さんになれないのか?」と嘆き悲しむ前に,自分が配属された部署で,同期のA君に「ちょっと,10kHzのLPFを作ってもらえないか?」と頼まれたことを想像してみましょう.
あなたは,このA君からの情報だけで,設計することができるかどうか考えてみてください.また,あなたなら,自分が困らないためにも,他人にフィルタの設計を依頼するとき,最低限どういった情報(仕様)を伝えるか答えて下さい.
[問8]
2次以上のLPFは,1次,2次のフィルタ(フィルタ・セル)を縦続接続することで構成できます.このとき,各段のQを変えて(フィルタの伝達関数によっては,格段のfcも変化させる場合があります)構成します.
例えば,4次のバタワース・フィルタを構成するときは,Q=0.541196と,Q=1.306563の2つのフィルタ・セルを組み合わせて作ります.
ここで,Qの高いフィルタ・セルとQの低いフィルタ・セルのどちらを初段にすると良いか考えてください.またその理由も考えてみましょう.
(ヒント;Qはゲインを表していたということを思い出してください)
[問9]
バタワースLPFのfcとQを以下の表に示します.この表を使って,4次バタワースLPFを設計してみましょう(回路図も描いてください).なお,使用する抵抗はすべて3.9kΩとします.
[問10]
回路定数が決まったので,特性を確認する意味で回路シミュレーション(SPICE)を実行しました.このとき,理想オペアンプモデルを使うと計算通りの結果が得られたのに,実際に使用するオペアンプのマクロモデルを使ってみたところ,特性が変わってしまいました(なにやら,カットオフ付近にピークが出てしまいました).
理由として,何が考えられますか? 問5で求めた式から推測してみて下さい.
また,その推測の結果から,フィルタに使用するオペアンプを選ぶとき,どういった特性に注意する必要があるか考えてみて下さい.
[問11]
アクティブ・フィルタの利点と欠点を考えてみて下さい.
[問12]
アクティブ・フィルタのHPFでは,高周波までゲイン0dBが保たれません,これは何が原因だと思いますか?
[問13]
高周波信号を扱う場合や,高次のフィルタ(高いQを必要とするフィルタ)にはLCフィルタが使用されます.LCフィルタの利点と欠点を考えてみましょう.
[問14]
低周波では,あまりコイル:Lを使いません.この理由としては何が考えられると思いますか?
課題は以上です.
難しかったでしょうか?全部できなくっても特に心配することはありません.経験を積みながら,実践的に理解していけば良いと思います.
フィルタに関する文献は難しいものが多いのですが,参考文献に挙げた1),2),3)は比較的平易に書かれています.仕事でフィルタを設計しなければいけなくなったときと言わず,暇なときに紐解いて見ることをお勧めします.
...電子回路設計ノート